1:金融分野のシステム事故とその主要因
  ・概要
  ・最近のシステム事故
  ・銀行が係わるIT訴訟
    ・システム事故に係わる金融庁行政指導

2:システム障害・事故の事後対応例
  JR東 2005年12月25日の羽越本線砂越〜北余目間第2最上川鉄橋付近における特急「いなほ14号」脱線事故 広報例
   @当面の対応について (2006年1月17日)[PDF/80KB]
   A対策の実施状況と今後の取り組み (2006年12月20日)[PDF/86KB]
   B対策の実施状況について (2007年12月18日現在)[PDF/139KB]
   C対策の実施状況について (2008年4月1日現在)[PDF/67KB]





その1 金融分野のシステム事故とその主要因 ・概要

特集

『増加する金融IT訴訟』:技術的側面よりも義務違反や不法行為が争点 ・・・・                 週刊「金融財政事情」誌 2008年11月17日号掲載
                                              多摩大学総合リスク研究所 総合リスク・マネジメント研究センター 稲垣 直樹


日本ではこれまでシステム事故処理は当事者間の話し合いで解決することがほとんどで、裁判沙汰まで発展することは稀であった。しかし、最近ではシステム事象に起因する民事訴訟(以下、IT訴訟)の増加が目立ち、金融機関も例外ではなくなっている。本稿ではIT訴訟の特徴や事案における争点、訴訟に潜む要因について概観する。


バグの顕在化や想定外のトランザクション

システム統合時の障害やコンピュータの誤動作、ソフトウエア/プログラムの不具合などに起因する事故が増えている。
システム事故といった場合、広義の解釈では、個人情報保護やセキュリティ関連あるいは行員の不正利用といったものも含まれるが、ソフトウエアにからむ事案では、プログラム作成段階では現われないバグの顕在化や想定外の取引トランザクションなど、従来の知見では制御困難な事故が目立つ。

2008年に発生したシステム障害(資料1)をみると、要件定義段階やプロジェクト推進途中、またシステム運用フェーズの事故と多岐にわたっている。資料2では、金融界のIT訴訟において、判決文や鑑定意見書・証拠物から示唆に富むものを抽出した。
システム事故がいきなり裁判沙汰になることは少ない。多くの場合、たとえ事故や見込み違いが表面化したとしても、プログラム製造業者やベンダーとの請負契約や準委任契約で双方が係わっていることもあり、訴訟までには至らないケースが大半だ。当事者相互の信頼性レベルが自社の許容度を超えた場合のみ、第三者に判定を仰ぐことになる。

おもに損害賠償請求の形をとるIT訴訟は、たとえば、ソフトウエア/プログラムに関する事故であると、
   @プログラム瑕疵(バグ)がどの段階で組み込まれたか、
   A複層に接続されたコンピュータ全体での相互関係に起因する非機能要因か、
   B当時の技術レベルで予見・予知されることなのか(蓋然性があるか)、
   C人間の誤操作などが争点となる。

そもそも「プログラム」に対する法的解釈は定まっていない。製造物責任法の対象からプログラムははずされているが、これは「バグのまったくないプログラムはまず存在しない」という社会通念をより所としていることによるものだろう(IT訴訟ではこれを前提においている事案が多い)。

裁判進行は、一般の民事事件と同様の流れになる。いうまでもないが、事案がシステム技術に起因するため、金融業務および情報技術に強い弁護士に任せるのが良策である。業務の特徴や背景、プログラム構造および事故原因を理解するまでに初期段階で時間を要する。さらに事故事実に基づき法的な裏付けをするのは容易な作業ではない。調停や和解の道もあるが、解決まで何年もかかる例が多い。たとえば、システムのロジック自体が事故の原因とされ、コンピュータを実際に稼働して判決に至ったケースでは五年以上の歳月を要した(注)

そこまで日数を費やしても、最後まで技術的な納得性は得られにくいことから、争点が純粋な技術問題ではなく、むしろ契約・合意の形態(義務論)やベンダー側のプロジェクトマネジメント義務・協力義務・履行補助義務といった点で争うことで方向性がみえてくる訴訟が多い。IT訴訟では、法的なルールが整備されていない現状――システム事故に対する民訴法の未整備や法曹界におけるIT専門分野向け人材不足――から、なかなか司法の便益を受けにくいという現実があるようだ。

システム的原因が争点になるケースは少ない

 金融機関のIT訴訟は、類型化できるまでの判例数には至っていないものの、過去判例から、
   @債務不履行、
   A瑕疵担保責任、
   B不法行為、
   C製造物責任、
   D商品の説明責任やガバナンス上の説明責任、
   E義務違反・善管注意義務(最近は受託業務の「仕事完成義務」の視点も注目されている)――
の六つの側面でとらえることができる。

金融機関は、システム案件を子会社や外部ベンダーに委託する場合が多く、民法上の「契約」形式をとる。この場合、瑕疵担保責任の契約は一年以内に限定されるので、瑕疵担保期間の伸長を合意しておくことが望まれる。
同様に、金融機関はシステム開発規模や業務内容から「現行システムライフ」を見通して交渉する必要がある。瑕疵担保期間が終了した段階でのシステム障害は、損害賠償請求権の行使ができないため、不法行為に基づく損害賠償請求となる。つまり、瑕疵がベンダーの過失に基づくものであることを立証する必要がでてくるが、その作業は、弁護士任せにできるものではなく、現場に多大な労力を強いることになる。

日本のIT訴訟では、プログラムの不具合が原因で被害が拡大したような場合のシステムの非機能問題(プログラムの機能定義にない想定外の事象の顕在化)や、ヒューマンエラーがなぜ組み込まれたか、なぜ受入れテスト段階でエラーが摘出されなかったかなどの技術的原因そのものは訴訟の争点になりにくい。
また、
現状では当り前のように使われているシステム技術に、実は限界が表われている問題(印影の転写技術の高度化を駆使した犯罪に、金融機関の本人確認や印鑑照合が裏をかかれるケースなど)に関する裁判でも、犯罪手法が高度化し技術面との齟齬に直接答えられないでいる。法的にその事実が盗用行為で、どのように使われたかの視点で義務や不法行為面からの争点もみられる。
 一方、コンピュータの振る舞いや想定外の事故は、直接目にみえないだけに、文章化を必要とする起訴状や答弁書作成段階で多大な努力を要する。とくに一般顧客が起こす裁判の場合、コンピュータ事故の事実認定が容易ではないことに加えて、顧客は金融機関側のコンピュータ状況がわからないという情報力格差が大きいために、立証段階で困難を極めることが多い。

(注)東京地平16・12・22平成10年(ワ)第23871号:請負契約で納入したプログラムの内在する瑕疵は、委託側の仕様問題か、修正作業範囲かが争点となった事件。約五年間の裁判の末、プログラムに欠陥があると認められた。



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その2 金融分野のシステム事故とその主要因  最近のシステム事故

リスク要因
システム領域
金融機関名 2008 システム障害概要(プレスリリースおよび報道ベース)
イオン銀行 1/10 イオンバンクカードのWAON機能に不具合
プログラム仕様 全国個人信用情報センター 1/15 茨城銀行の内部調査過程で、全国個人信用情報センターにプログラムの不具合で965件の誤登録が判明。同センターにおいて06年10月にプログラム変更を実施し、多数の金融機関で登録ミス問題が発生、調査を依頼中
ハードウエア 三菱東京UFJ銀行 1/28 「三菱東京UFJダイレクト」(インターネットバンキング、テレフォンバンキング、モバイルバンキング)で、システム障害により回線がつながりにくい事象が発生(7:53〜11:10)
プログラムバグ 東京証券取引所 2/8 「派生売買システム」が11:00「TOPIX先物取引20年3月限月」において前場の終値を算出する処理で不具合が発生。終日取引停止
野村證券 2/13 支店セミナーの予約受付、株式ミニ投資・株式積立て取扱銘柄一覧、REIT、国内ETF、株主優待情報の利用ができない障害
PCブラウザ不具合 北門信用金庫 2/13 インターネットバンキングでInternet Explorer(IE7)およびWindows Vistaで障害
PCブラウザ不具合 渡島信用金庫 2/24 インターネットバンキング(WEBバンキング、WEB-FB)でWindows Vista環境でのIE7の不具合で、ログイン時のパスワード(6桁以上12桁以内)入力時に黒丸が大きく表示されて9桁目以降が表示できないなど3件不具合
信金中央金庫 2/25 「送信電文ソフトのバグ」(経営企画部)によってバックアップ回線で全銀システムと接続障害。為替取引74万件未処理。不具合の詳細は公表していない
PCブラウザ不具合 小樽信用金庫 2/27 Internet Explorer(IE7)で「画面表示・帳票出力等において、標記OSおよびブラウザソフトの不具合に起因した問題が発生する」
事務ミス・プログラム瑕疵 三菱UFJ銀行 2/28 短期プライムレートに自動的に連動しない貸出形態において、都度手作業で金利変更のオペレーションを行う必要があるにも関わらず、一部の貸出金利について約定通りの変更がなされていなかった。団体所属会員向け優遇金利が適用されず。貸出125件で利息計約5000万円
八十二銀行 2/29 「為替OCRシステム」において、月末データが想定外の大幅超過処理量となり仕向電文103件、被仕向電文1115件の未達が発生したシステム障害(14:30〜17:30)
外部電源系統 北都銀行 2/29 電力会社送電系への落雷事故により事務センター電源異常から、全ATM332台中103台に取引停止の影響(10:32〜10:40)
プログラムミス 親和銀行 3/5 ATM搭載の「指静脈認証ソフト」の不具合で323台が停止
電源系統障害? 野村証券 3/6 「野村ホームトレード、ATM、野村テレフォンアンサー、ほっとダイレクト、野村ホームバンキング」で約5時間の停止
日本銀行 松江支店 3/24 松江支店において、資料「破綻懸念先リスト」を自宅に持ち帰り、自宅のPCから(Winny)情報が流出。金融機関の決算について分析した資料、金融機関の国庫国債事務に関する事務検査の資料など、実名記載された資料。実名が出た酒屋は2008年10月倒産。
風評被害を受けたとして起訴。
 ※当事件は、同年6月¥数百万円の解決金を支払った。
住友生命保険 3/24 インターネット利用の「住生Directサービス」(PC、携帯、電話での自動応答)と自社ATM網サービスがシステム障害(11:00〜14:50)
メールソフト 北國銀行 4/1 インターネットバンキングサービスの新商品「HAPPY!ライン」の案内電子メールの一斉送信(BCC送信)で、電子メールソフト(セキュリティ管理ソフト)の不具合により、電子メールの本文に232名の顧客の電子メールアドレスが表示される
ベンダー提供
ミドルソフトバグ?
鹿児島相互信用金庫 4/8 法人インターネットバンキングの総合振込、給与振込業務において、特定PCの一部固まる障害。ファイル伝送サービス部分のJava6Update5の不具合で、旧バーション(6Update2)に再インストール
プログラムバグの
顕在化
農林中央金庫 4/11 取引先法人企業向けFBサービス業務における「為替電文作成プログラム」で想定外のデータを受信した時の例外処理部分の不具合で、構築8年たってプログラムバグの顕在化。約70億円の振込みできず
通信回線 セブン銀行 4/18 ATM611台が通信回線の不具合でサービス障害。通信回線のパケットロスの多発による不具合(〜4/19)
りそな銀行/埼玉りそな銀行 4/25 りそな銀行・埼玉りそな銀行のATMにおいて他行カードおよび他行ATMでりそな系カードの利用不可能になる不具合
三菱UFJ証券 4/28 「オンライントレード、ボイストレード」システム障害(9:00〜18:00)
東京金融取引所 4/30 約定データの清算システムへの配信遅延について「遅延の原因は、新金利システムへの移行に伴い、約定データの配信に係るソフトウェアの環境設定をシステム委託先が誤ったことによるもの」
ホストコンピュータ障害 朝日信用金庫 5/5 セブン銀行ATMおよび提携信金ATMからのオンライン取引停止(7:00〜8:30)
ATMサーバーソフト 南都銀行 5/7 10頃からATMの運用において障害が発生、ピーク時には445台が休止。徐々に回復し約2時間後に全ATMが復旧。障害の原因は、ATMサーバ・ソフトのプログラムに不具合
仕様指定ミス
テスト検証
三菱東京UFJ銀行 5/12 旧UFJ銀行関係とのシステム統合作業(DAY2)に伴うセブン銀行設置のATM接続で障害。伝送電文文字の「カナ」と「漢字」扱いの不一致
東京シティ信用金庫 5/15 システム障害にて「残高証明書」の発行で一部、残高相違出力が発生、対象お客様は45先
通信制御装置の不具合 北陸銀行 5/15 自行カードで行内ATM・提携金融機関ATM・コンビニATM利用の提携先(他金融機関等)カードで同行ATMを利用したお取引、デビットカード取引、インターネットバンキング取引
OS 福岡銀行 5/20 バージョンアップした勘定系システムの基本ソフトに不具合。勘定系システムに障害が発生し、一時、入金・支払いや振込みなどの取引が出来ない状態
端末制御プログラム 住友信託銀行 5/19 店舗設置のATMでの入出金・残高照会・振込、 E-Net(コンビニエンスストア設置のATM)での入出金・残高照会・振込、 インターネットバンキングを利用した他行宛振込業務でATM141台中120台がシステム障害。営業店端末数900台体制に増設工事中の障害(8:30〜13:29)
通信プログラム 5/21 本支店でのATMでの取引、本支店およびインターネットでの取引、E−net等で障害発生(9:20〜10:13)
システム不具合 ジャパンネット銀行 5/22 競艇インターネット即時投票サービスにおいて一部入出金処理取引が遅延する状況が発生(14:13〜14:42)
品質 住信SBIネット銀行 3/17 住宅ローン契約サービス障害
4/21 SBIイートレード証券からの専用預金の利息分の買付余力の反映遅延による他行への振替え事務不可の障害
5/28 Web、モバイル、ATMでの取引障害(19:50〜20:20)
システム関連機器 新生銀行 5/26 全銀為替送金システム関連機器に障害が発生し、その影響により振込み取引の一部(仕向送金取引、787件169,891,405円)が未完了の状態が発生(9:22〜9:44)
提携系統? *大東銀行
(ANSERセンター:要調査)
5/26 システム障害でファームバンキング(FB)およびANSERサービス中止(9:28〜10:13)
京葉銀行 5/30 勘定系システムで障害が発生し、一部の営業店および店舗外出張所(店外ATM、コンビニATM)で業務停止(10:23〜10:41)
ミドルソフトバグ 投資信託協会 6/2 協会システムの障害により、基準価額データシステムにおける6月2日および6月3日の基準価額の掲載が遅延、6月5日8時53分にデータの復旧作業は終了
データベースサーバーの一部ファイルが破損 阿波銀行 6/2 ホームページに一部閲覧できないページがあるという不具合(〜6/3)
八千代銀行 6/5 システム障害のため、一部の店舗においてATMおよび窓口での業務が取扱いできない状況
プログラム瑕疵 沖縄銀行 6/10 全店ATMおよび店舗外ATM等において、通信管理プログラムの不具合により、沖縄銀行の本支店向けのお振込み手続きがエラーとなる障害が発生(15:20〜17:58)
連続システム障害 ジャパンネット銀行 6/2 携帯電話からの全ての取引中止(12:30〜13:10) 
6/4 競艇インターネット即時投票サービス、競輪ネットバンクサービス等の入金処理、SBIオンラインチェックサービスでの引落処理中止(16:07〜17:01)
6/16 システムの不具合により登録されている振込事前登録先のうち一部の振込先について受取人名が別の名前に変更された事象(5:52)。当該受取人名が変更された事前登録先は、誤振込防止のため一時的に削除(8:58)
イーバンク銀行 7/9 セブン銀行およびゆうちょ銀行のATMにおいて同行の取引(入金、出金、残高照会)ができない事象が発生(12:13〜13:20)
コンピュータ・トラブル ゆうちょ銀行 7/14 東京証券取引所から受領した送金データ(2516件、約4億5千万円)の処理で、午前中に処理をすべきところ、コンピュータシステムのトラブルにより処理遅延が発生
提携系統? *福井銀行
(CAFISセンター:要調査)
8/1 EB・アンサーサービスの障害
電源
プログラム瑕疵
高知銀行 8/5 住宅金融支援機構の口座引落し処理でバックアップデータから引落しデータを抽出する際に、本来引落すべきではない過去のデータまで含めて抽出
カード 大分銀行 8/15 生体認証ICキャッシュカードのICチップ内の情報の一つである「発行者アプリケーションデータの設定値」ミス判明によるカードの新規扱い中止
提携系統? *住信SBIネット銀行
(CAFISセンター:要調査)
8/18 CAFISセンター障害?による同行ATM網不稼働(11:14〜11:18)
大和証券 8/20 私設取引システム(PTS)システムにおける障害対策用の処理の不具合が原因で終日サービス中止
イーバンク銀行 8/22 イーバンクマネーカードの一部取引の引落しの不具合と同一原因により一部「入金取引」でも不具合が発生
プログラムミス 百五銀行 7/31 三重県自動車税収納のうち延滞金を徴収する必要がある納付を受け付けた際の計算ミスにより、本来徴収すべき延滞金額より少ない金額で延滞金を収納する等の事例が発生(〜8/22)
*八十二銀行
(じゅうたん会)
8/27 最近発売されたau携帯端末のモバイルバンキングでの不具合
テスト じぶん銀行 8/18 じぶん通帳(アプリ)における他行あて振込み処理の不具合によるサービス中止
8/30 システム不具合による「携帯バンキング、パソコンバンキング、テレホンバンキング」に障害
提携系統? *親和銀行
(ANSERセンター:要調査)
8/31 アンサーシステムの取引照会サービスの一部不具合
プログラムミス
テスト検証不備
中央三井信託銀行 9/1 約7時間、ATM支払い業務で50万円以上引出しできず(8:00〜14:57)。変更プログラムを修正
西九州信用金庫 9/3 インターネットサービスに接続できないという事象
三菱UFJ証券 9/12 入出システムの一部に障害発生。詳細公表なし
プログラム瑕疵 大和証券/大和証券SMBC 9/12 株式注文システム障害発生。→制度変更に伴う変更プログラムの不具合で制御系プログラム停止。原因は「制御系プログラム」が停止し、株式注文の受注データを発注処理へ引き渡すことができなかったためと判明
内部管理態勢 パンタ・レイ証券 9/17 証券取引委員会が行政処分を勧告。システム障害時に損失を受けた10名の顧客に損失補填。3名の顧客に財産上の利益を提供し、その届け出をしなかった。外国為替証拠金取引に係わるシステムに「障害発生時の対応手順の場当たり的な対応」「部員らの管理端末からの架空取引」「全社的システムリスク管理」態勢の不備等で業務改善命令
大和証券 9/18 インターネット経由の夜間私設取引システム(PTS)および勘定系入出金業務終日停止(18:00〜22:40)。HDDの破損が複数のシステムに波及し、バックアップが正常に機能しない。詳細原因調査中
通信回線障害に伴う
通信ソフト
香川銀行 10/1 通信回線障害による行内ATM、営業店端末の取扱いや他行カード、提携カード会社等の対外接続取引の障害(8:30〜11:00)で、代替方式がなかった
全信組連信組情報サービス 10/6 「SKCセンター」において障害が発生、加盟する137信用組合において為替の取扱いができない状態(8:30〜10:32)
みずほインベスターズ証券 10/8 インターネットサービスご利用時の画面表示の応答(レスポンス遅延)が、ある一定の条件によって通常より時間がかかる事象(センターシステムと顧客の利用環境との関係で、ある種類のセキュリティソフトが起因となり遅延する現象とみられる)(〜10/15)
通信回線障害 高知銀行 10/9 通信回線障害により、エレクトロニック・バンキングサービスの残高照会、入出金明細照会、資金移動、振込・振替の取引中止(14:36〜18:45)
りそな銀行/埼玉りそな銀行/近畿大阪銀行 10/13 3行共通のインターネットバンキング業務のHPリニューアルに伴う新サービスで、断続的な接続困難な状態が続いたシステム障害(〜10/14)
野村證券系
/ジョインベスト証券
10/14 株式市場で買い注文が殺到した10/14に注文処理が遅れ「野村ホームトレード、野村テレフォンアンサー、野村ホームバンキング」などにログインできないケースが発生。ネット取引の顧客注文が取引が成立しない「失効」と表示当該不具合については13時復旧
11/12 金融商品取引法による業務改善命令排出
ジャパンネット銀行 10/18 ゆうちょ銀行、セブン銀行の全ATM、J-Debitでの全取引停止(6:00〜8:01)。JNB-FXシステムでは、08/6/18、7/2、7/31、9/20とトラブルが続発していた
JCB 11/3 新基幹系システム移行・本格稼働予定
N/A 11/4 会員向けWebサービス窓口(MyJCB)が開始直後の「過負荷」でシステム障害発生、「カード利用代金明細」「資料請求カード」等で不具合。
N/A 11/5 JCBカードATM現金借り入れ(キャッシング)業務サービス中断。(15:30〜21:53)
 以降、追加作業中      
       
注)「金融機関名」で「*」印は、他提携接続による自行でのサービス中断を自銀行名での公開を示す。
    「領域」で「−」印は、未発表またはN/A。

本表は、信頼性が高度に要求されている「銀行系のシステム障害」を中心に抽出したが、傾向は掴め、それなりの対策は実施されている事を願って、この一覧は閉鎖する。以降、行政当局が配出した事案を中心にする。

また、業界横断的な視点とIT事故を予防する視点からのマーケット現状を調査する。Webでの発表はある程度の母数が収集出来てからにする。


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その3 金融分野のシステム事故とその主要因  銀行が係わるIT訴訟

Risk要因
Risk領域
事件名 事件概要と背景 システム視点からの争点 参照条文
(民法、商法、会社法等の視点
システムと業務規程 大阪地平14・3・13
平11(ワ)4605号
「住友信託銀行」
住友信託銀行のプロジェクトファイナンスに対する株主代表訴訟で棄却された事例。役員16名へそれぞれ56億円の支払い命令 銀行のプロジェクトファイナンス業務におけるリスクマネジメントのリスク測定技法と業務執行内容 取締役の善管注意義務と忠実義務違反の解釈
商法254の3、254-3項、266-1、267条。民法644条
無過失である要件 最高3平15・4・8
平14(受)第415号
「親和銀行」
車両内に置いた盗難通帳を使って(無権限者)が、預金通帳またはカードを使って、ATMから預金の払い戻しを受けた場合の銀行側に過失があるとされる場合はどんなケースか 預金通帳を使用し暗証番号を入力するATMシステムで、銀行が無過失であると言うための要件。銀行の機械払いシステムに欠陥があり、安全性が十分とはいえないとされ上告 非対面取引の民法478条の適用する際は、システム全体の構築を視野に含めて、弁済者の過失が判断されるべきである。民集57巻4号。
リスク・マネジメント 大阪地平15・9・24
平14(ワ)3646号
「大和銀行」
大和銀行NY支店でおきた11億ドルの不正取引で当時の取締役に対する株主代表訴訟事件の中で、企業の内部統制システムの不備、組織運営上の不備を指摘 リスク管理能力と効率的ALM運用を支える「リスクマネジメントのあり方」を示唆 有価証券報告開示 事業リスクの開示例
企業価値評価ガイドライン
仕様・要件定義 東京地平18・5・2
平17(ワ)4865号
「UFJ銀行蒲田支店」
振りこめ詐欺の被害者が当該振込にかかる普通預金の払戻しを受けた後に仕向銀行に対して当該振込手続の取りやめを依頼した場合における仕向銀行が上記依頼に応ずべき義務の有無 振込機システムの振込資金の受領確認のタイミング 民法644条、651条、656条
協定書 東京地平17・6・13
平14(ワ)8982号
「UFJ銀行ーさがみ信金」
一括支払システムにおける代物弁済条項の当事者間における効力が否定された 事務フロー設計 国税徴収法24条5、民法90条、91条
要求仕様と稼働判定 東京地平16・10・29
平15(ワ)15691号
「オリエント信販」
「新基幹システム」の範囲と「立ち上げ」の意味・検証の内容の相違でボーナス労賃を支払わなかった事案で、信義則・権利濫用を生じる余地があるとされた事例 @覚書記載の「新基幹系システム」とはどこまで含まれるか
A複数ベンダーからみのシステムで「立ち上げ」とはどこをさすか
支払条件付き(業務名)記載の労務覚書の労賃支払い(労働判例)
システム障害時の利用者側主張 東京地平20・1・29
平19(ワ)第11251号
「みずほ証券」
原告は、みずほ証券の誤発注(1円61万株)なる異常時に取引を行い、結果損害を被ったのでみずほ証券を提訴 異常な売り注文であったが、東証の取引所における取引の性格及び取引するものが負うべき自己責任の原則に照らすと、誤発注は、原告との関係において不法行為を構成することはない。
本件誤発注と原告損害との間に相当因果関係はない。
証券業務における消費者保護の範囲
システム陳腐化 東京高平17・10.5
平17(ラ)第1398号
第三債務者
  「UFJ銀行」
  「三井住友銀行」
  「東和銀行」
本店及び同一県内支店を順序付けて定期に満つるまでとする預金債権仮差押命令の申立ては特定可能であるとされた事例。 顧客管理システム(名寄せシステム)は、銀行本店に仮差押命令が送達された場合、仮差押債権目録の表示に従って他の債権と仮差押債権の区別は、遅滞なく資料を提出するに必要な預金等DB及びコンピュータシステムの整備その他の措置を講じなければならない 預金保険法55条の2、同条4項
(預金保険法55条の2に規定される名寄せが可能な顧客情報DBの義務づけについては評価が分かれている)
要求される遅延がない迅速性対応要求とシステムの整合性は?
コンピュータシステムと事務取扱の同期性 東京高平18・6・19
東京高平18(ラ)第475号
第三債務者
 「三菱東京UFJ銀行」
 「三井住友銀行」
銀行の複数支店に順序を付した預金債権に対する仮差押命令の申立てが債権の特定ができるとされた事例 CIFシステムを有している金融機関は、このことを前提として仮差押えの目的物となる債権を確定することが、社会通念上合理的と認められる時間の負担の範囲内で(支払いを停止するまでのタイムラグが生じても)困難であるか否かの判断をおこなうのが相当である 民事保全法21条、民事保全規則19条とCIFシステムの事務フロー
技術的陳腐化 東京地 平16・9・24
平14(ワ)第26798号
「三井住友銀行」
「東京銀行協会」
盗まれた預金通帳による普通預金の払戻しにつき、銀行の担当者が行った印鑑照合に過失はなく、銀行は不法行為責任を負うことがない 「印鑑照合」における印影平面照合の同一性の確認で足りるとした判例の基準は不合理であり、昨今、スキャナーやプリンターの高性能化で偽造が極めて容易になっており、預金の安全性確保の面で劣るという不合理な状況になっている。IT技術と法解釈で示唆に富む判決 「預金等の不正な払戻しへの対応」について(全銀協発表08/2/19)
<参照>金融法務研究会第2分科会報告書「銀行取引をめぐる消費者保護の現代的展開」について(金融法務研究会)
システムと規約 長崎地裁 平20・4・24
平17(ワ)第162号
「クレディセゾン」
インターネットのアダルトサイトを子供が無断で親のクレジットを使った時、親はカード会社に利用分の支払う責任はないとされた カード決済システムで不正利用(暗証番号などの本人認証なしに)できるシステムは、利用方法の明示が不充分であり、かつ親子間に帰責性があっても、原告のカード会社が敗訴 カード約款の補償規約と預貯金者保護法5条3項、民法478条
民集57巻4号337号
ビジネスモデル特許
(訴訟中)
東京地平19・7・2
平19(ワ)第16732号
東京都民銀行が三菱東京UFJ銀行に対しビジネス方法特許(給料前払い代行サービスの仕組みBM特許)の侵害があるとして、損害賠償と使用差止め請求 金融関連の類似ビジネスモデル特許(BM特許)が多数登録されており、実務面からのシステム企画や商品開発に影響が出始めた。 特許第3685788号:特許第3857279号
給与の前借り、日当計算の毎日、毎月まとめて支払う前払い代行サービスは「公知」か
接続系内における
訂正取引処理方法
(20/2/27判決)
東地平18(ワ)第23958号 みずほ証券が東証を提訴。誤発注に起因するバグ顕在化事象について。
400億円損害賠償請求
ソフトウエアバグの顕在化に関わる事象の会員会社の誤発注と取引所の訂正処理プロセスにおける@業務規定上義務(結果債務論)、Aシステム系全体の非機能制御問題Bソフト品質問題 「人間の誤操作」と入力部プログラム、センター処理のバグゼロ化は可能か?」のヒューマン・エラー問題
プロジェクト遂行方法
(訴訟中)
東地平20・(ワ)第5320号 スルガ銀行が日本IBMを提訴。
112億円損害賠償請求
@要求定義書システム化過程におけるプロジェクトマネジメント義務と国際会計原則の「工事進行基準」上の義務とは?
A外国製基幹勘定系パッケージを前提としたプロジェクトの妥当性は?
オブジェクト思考は銀行に何をもたらすか?
ATM提携銀行間手数料
(提訴中)
平成20年11月11日 東京スター銀行が三菱東京UFJ銀行に対し取引再開と損害賠償請求 @ATM相互利用に関する諸規約、MICS運営機構の運営規約、CDオンライン提携業務との範囲A独禁法24、19条の適用? 顧客の利便性と手数料の顧客負担度は? 
基本体系(仕向け、被仕向け比率)


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その3:システム事故に係わる金融庁行政指導
 2010/2/12 SBI証券に業務改善命令に合わせ、日本証券業協会に業界全体で事故再発防止に取り組むよう異例の要請を配出。
 2010/2/19 アリコジャパンのカード情報流出に対し、業務改善命令を近日配出予定。内部管理体制の不備を指摘。




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